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今月の特集

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【計量トピック】

130年ぶりにキログラムの定義が改訂されます

 このコラムでは、ワシがひとりでしゃべることにするわい。
 さて、ビッグニュースじゃ!
今月13日~16日にフランス共和国・ベルサイユ国際会議場において
行われた第26回国際度量衡総会で、SI 国際単位系の7つの基本単位
のうち基本4単位の定義の改定が採択されたのじゃ。
 質量の単位である「キログラム」については、実に130年ぶりの
改定となる歴史的な節目となった。ここで、改訂前の従前の定義を
おさらいしておこう。

従前の7つのSI基本単位の定義(改訂前)


 表をみて分かる通り、質量だけが「国際キログラム原器(IPK※)」
という人工物で定義され、100年以上にわたって使われてきたのじゃ。
130年前に白金イリジウム合金で製作された金属塊は、腐食せず、
また摩耗にも強く、慎重に扱えば10万年は質量の基準として機能する
だろうと当時は考えられておったそうじゃ。ところがじゃ、その後の
計測技術の進歩によって、当時は予想だにしなかった質量変動が明らか
になってきたのじゃ。つまり、表面吸着の影響や洗浄により、国際キロ
グラム原器には約50μg(マイクログラム)の差がでているということ
が分かったのじゃよ。50μgとは、ちょうど指紋1個の質量に相当する
そうじゃから、極めて微小な変化には違いないのじゃが・・・。
 ※ IPK:the International Prototype (of the) Kilogram

 とはいえ、わずかでも変動すれば計量単位の基準としての役割を果たす
ことはできない訳じゃ。そこで、計測に関わる世界中の研究機関が協力
して、国際キログラム原器に代わる基準を開発しようと努力を続けてきた
結果、今回の定義の改定に実を結んだのじゃ。

 具体的には今回の改定において、キログラムの定義を、器物に依存する
のではなく、決して変わることのない物理定数によって定義し直すことに
より、計量単位の長期的不変性を確保することにしたのじゃ。ここからは
難しいハナシになるのじゃが、キログラムは、光に関する基礎物理定数の
一つである「プランク定数」をもとに定めることとなった。プランク定数
は、光子のもつエネルギーと振動数の比例関係を表す比例定数のことじゃが、
これを実験的に値を決定する定数としてではなく、不確かさをもたない
正確な次の値に固定することでキログラムを再定義することにしたのじゃ。

 

キログラムの新定義
 キログラムは、プランク定数の値を正確に
 6.62607015×10のマイナス34乗ジュール・秒(Js)
 と定めることによって設定される


 ところで、この未来永劫不変であるプランク定数によるキログラムの定義
じゃが、何のことか?意味がさっぱり分からないじゃろう。従来のカタチある
国際キログラム原器の質量に比べると、直観的にピンとこないのも無理は
ないのう。では、次のように言い換えてみるとどうじゃ?

「1キログラムは波長633ナノメートル(※)の光子の約3×10の35乗個分の
エネルギーと等価な質量」


「1キログラムは波長633ナノメートル(※)の光子1個が吸収されたときに
約1.05 × 10のマイナス27乗メートル毎秒の速度変化を生じる質量」

 (※)波長633ナノメートルは、赤いレーザーポインターの光に相当

 いやいや、これでもやはり1キログラムの重さを直観的に理解することは
できないじゃろう。しかし、上のように1キログラムを複数の表現で表すこと
ができることが重要なのじゃな。固定の物理定数(プランク定数)で定義した
からこそ、言い換えが可能であり、かつそれらが相互に等価であるのじゃ。

 難しいハナシはこのくらいにするが、今回のキログラムの定義改訂に当たり、
わが国の(国研) 産業技術総合研究所(産総研)の研究員らが、「世界で最も丸い」
といわれる直径94mmのシリコン単結晶球体の超精密な形状計測を通じて、
プランク定数を世界最高レベルの精度で測定したことで多大な貢献をしたこと
は見逃せないポイントなのじゃよ。

 さて、キログラムに加えて、アンペア(電流)、ケルビン(熱力学温度)、
モル(物理量)の基本4単位の定義も同時に改定され、来年2019年5月20日に
施行されることが決まっておる。

 一方、産総研(茨城県つくば市)の地下室に厳重に保管されてるという
日本国のキログラム原器はどうなるのじゃろうか? 国際キログラム原器に
合わせて製作された40個の複製の一つで、19世紀末にわが国に到着した
キログラム原器。来年の5月20日以降は、お役御免となるのじゃろうか?
もしそうなら、「長い間お疲れ様」と言いたいものじゃのう。

 本コラムは、産総研殿のウェブサイトを参考に執筆しました。